【国試割れ問の解説・呼吸器内科・医師国家試験第113回B27】適切な判断力と手技の基本中の基本をおさらいしよう!


26歳の男性。胸痛を主訴に来院し入院した。出張で午前中に飛行機に乗っていたところ、右肩に軽い痛みが出現した。到着後の空港で歩行中に呼吸困難を自覚し、その後も症状が持続したため、近くの病院を受診した。精査の結果、自然気胸の診断で入院となり、胸腔ドレーンが挿入され持続吸引ドレナージが行われた。


翌朝、担当医が診察したところ、胸腔ドレーンが前日より 20cm程度抜け、ドレーン先端から 5cm程度が体内にとどまっている状態であった。患者は呼吸困難を訴えず、呼吸数 16/分、 SpO₂ 99 % (room air)である。


まず行うべき対応はどれか。  


a 持続吸引を中止する。


b 動脈血ガス分析を行う。


c 胸部エックス線撮影を行う。


d 持続吸引圧を 2倍に上げる。


e 胸腔ドレーンを 20cm押し込む。


医師国家試験 第113回B27

ロジカルな思考が試される

これはおもしろい問題ではないでしょうか。必修にしては難しいけど、考えれば解ける必修ぽい問題ですね。

研修医になって対応しなければならない可能性は十分ありそうなトラブルです。

現実にはこの状況で研修医一人だけで対処しなければことはほとんどなく、上級医にひとこと助言をもらってからということになると思います。

論理的な思考ができれば簡単

胸腔ドレーン管理についてほとんど知識がなくても解ける問題なので、トラブルが起こった時にロジカルに考えて、最適な処置を行えますかと問うているのでしょう。

実際に臨床実習なんかで胸腔ドレーン管理の現場をみていればイメージがつくので解きやすいと思います。一方で単純に知識があれば解ける問題ではなく、医師として冷静に論的な思考ができるかを評価しているので、緊張している試験本番では色々余計なことを考えて間違ってしまうかもしれません。

状況の整理をすることから始める

状況を整理すると、気胸の治療目的に入れた胸腔ドレーンがなんらかの理由で抜けかかっているけどまだ抜けていないという状況です。

患者さんのvitalに変化はないので何か悪いことが起こっている可能性は低そうです。

この場合まず何をすべきか。

そう、当然まずすべきは現状の評価です。

どんな場合でも「現状の評価=検査」→「対処=治療」という流れで医療は進んでいきます。

この場合はvitalに変化ないのであれば落ち着いて現状評価してから適切な対処を考えればよいでしょう。さらに言えば仮にvitalに変動があったとしてもやみくもに処置すべきではありません。その場合はより迅速に症状に応じた検査をやりつつまずはvitalを安定させることを目指しましょう。

適切な判断力を身につけよう。主義には鉄則がある。

a これが一番間違えやすい選択肢だと思います。

持続吸引をいきなり中止する理由がありません。ドレーンから多量の血性胸水が排出されているとかであればいったん持続吸引を中止して状況を再評価する必要があるでしょう。今回の場合ではドレーンはまだ入っているので持続吸引は気胸に対して効果がある可能性があります。

もしここで持続吸引をやめてしまえば気胸が再発するかもしれません。まだドレーンは完全に抜けたわけではないし、気胸がよくなっているのか、ドレーンの先端がどこにあるのかもわかりません。

まだ治療半ばな状況でもしこのドレーンがしっかり効果ありそうならば固定を強化して抜けないように工夫したうえでこのまま治療を完遂できる可能性もありえます。もしここで持続吸引をやめてよくなりかけていた気胸が悪化すれば、ドレーン留置が長期化したり、再挿入が必要になったりといいことはなさそうです。

気胸におけるドレーン管理の基本をおさらいしましょう

ドレーンを抜く前にまずはドレーンからのエアリークがあるか確認します。エアリークがなければ肺の穴はふさがったと判断して、次はドレーンをクランプしてみてドレーンが効いていない状況を意図的に作り出します。これで問題なければドレーンはもう必要ないので晴れて抜去できます。

b 動脈血ガスでPaO2(=酸素分圧)を評価しましょうかということなんでしょうか。症状もなくSpO2も99%と酸素化は問題ないと思われます。(SpO2とPaO2の関係については別記事で紹介します)

血ガスではpHやPaCO2、HCO3なんかも評価できますが今の状況でこれらを評価する意味は少なそうです。したがっていますぐに検査する意義は実際のところほとんどないので正解となりえません。

現場では異常がないことを確認するのも仕事なので気になるところがあれば私は動脈血ガスを提出してもかまわないとは思います。

c これが正解です。気胸は改善しているのか、ドレーン先端はどの位置にあるのかまずは評価しましょう。XpでわかりにくければCTを追加してもいいと思います。

d 設定を変えるのは現状評価してからにしましょう。

e 手技における鉄則を二つ破っています。

鉄則① 汚いものを体の中に入れないようにする。

ドレーンは清潔操作で挿入しますが、体外にでている部分は不潔になっています。不潔な状態のドレーンを胸腔内に押し込むのはよくありません。必要なら入れ直しです。

鉄則② ブラインドの状況で闇雲に手技をしない

ドレーン先端がどこにあるかわかりません。もしかしたら広がった肺に押されてドレーンが出てきた可能性だってあるわけです。仮にドレーン先端が肺に突きささるような形になっていたら医原性の気胸を起こします。もし抜けかかったドレーン先端が胸腔内から抜けていれば、無理やり入れようとすると皮下組織を損傷するかもしれません。

見えない状況での処置は危険です。原則的にはしないようにしましょう。

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内科の医師をしておりますドクトルめがねです。最近は研究にも足を踏み入れてしまいました。 学びを言語化する場としてブログを書いています。内科医の夫(ドクトルめがね)と外科医の嫁(よめぽん)の奮闘劇漫画も随時アップしていきます。

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