【国試難問の解説・消化器内科・第112回医師国家試験C51-53】なぜ肝性脳症になるのか。考え方をマスターしよう


73歳の女性。意識障害のためかかりつけ医から紹介されて家人とともに受診した。
現病歴: 25年前にC型肝炎ウイルス感染を指摘された。6か月前に腹水貯留を
指摘され、肝硬変と診断されてかかりつけ医で利尿薬を処方されていた。今朝から呼びかけに対する反応が鈍くなり徐々に傾眠状態になったため、かかりつけ医から紹介されて受診した。

既往歴: 28歳の分娩時輸血歴あり。64歳時に食道静脈瘤に対し内視鏡的治療。
生活歴: 喫煙歴と飲酒歴はない。
家族歴: 特記すべきことはない。

現 症: 傾眠状態だが呼びかけには開眼し、意思疎通は可能である。身長161cm、体重59kg。体温36.1℃ 。脈拍76/分、整。血圧104/80mmHg。呼吸数20/分。SpO₂95 %(room air)。眼瞼結膜は軽度貧血様であり、眼球結膜に軽度黄染を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は膨隆しているが、圧痛と反跳痛とを認めない。腸雑音に異常を認めない。肝・脾を触知しない。直腸指診で黒色便や鮮血の付着を認めない。両上肢に固定姿勢保持困難〈asterixis〉を認める。両下腿に浮腫を認める。

検査所見(3週間前のかかりつけ医受診時) : 血液所見:赤血球368万、Hb11.8g/dL、Ht38%、白血球3,800、血小板4.0万、PT-INR1.3 (基準0.9~1.1)。血液生化学所見: 総蛋白6.5g/dL、アルブミン3.1g/dL、総ビリルビン1.8mg/dL、AST 78 U/L、ALT66U/L、LD277U/L(基準176~353)、ALP483U/L(基準115~359)、γ-GTP132 U /L (基準8~50)、血糖98mg/dL。
検査所見(来院時) : 血液所見:赤血球356万、Hb9.7 g/dL、Ht35%、白血球4.000、血小板8.6万、PT-INR1.3(基準0.9~1.1)。血液生化学所見:総蛋白6.4g/dL、アルブミン3.0g/dL、総ビリルビン6.3mg/dL、直接ビリルビン2.1mg/dL、AST78U/L、ALT62U/L、LD303 U/L (基準176~353)、ALP452U/L(基準115~359)、r-GTP103 U/L (基準8~50)、アミラーゼ95U/L (基準37~160)、アンモニア170μg/dL(基準18~48)、尿素窒素28mg/dL、クレアチニン0.8mg/dL、尿酸5.9mg/dL、血糖98mg/dL、総コレステロール106mg/dL、トリグリセリド90mg/dL、Na132mEq/L、K4.0mEq/L、Cl100 mEq/L、α-フェトプロテイン〈AFP〉468ng/mL(基準20以下)。CRP1.0mg/dL。腹部超音波像(別冊No.12A)と腹部造影CT(別冊No.12 B)とを別に示す。

C51 確認すべき症状として最も重要なのはどれか。
a けいれん
b 頭痛
c 動悸
d 腹痛
e 便秘

C52 次に行うべき検査はどれか。
a FDG-PET
b 腹腔動脈造影
c 上部消化管内視鏡
d 下部消化管内視鏡
e 内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉
 
C53 来院時の血液検査所見から現時点で肝腫瘤に対する治療適応はないと判断した。
その根拠として最も重要なのはどれか。
a 血小板8.6万
b PT-INR 1.3
c アルブミン3.0g/dL
d 総ビリルビン6.3mg/dL
e α-フェトプロテイン〈AFP〉468ng/mL

医師国家試験 第112回C51-53 より

肝硬変の患者さんが意識障害で運ばれてくることはよくあります。

原因が肝性脳症であることは直ぐに察しがつくでしょう。

もう一歩踏み込んで肝性脳症の誘因を鑑別できますかという問題です。

症例を見ていきましょう、ちょっと気がかりな点があります

半年前から腹水を認め、肝硬変と診断されているようです。

傾眠傾向のため紹介受診しています。どうやら64歳のとき食道静脈瘤と診断されているます。

ん?

ということはこの時点で肝硬変だったのでしょうか。

ここでは細かいことは気にしないようにしましょう。

どうやら肝硬変の人が意識障害になって運ばれてきたらまずは、肝性脳症を疑います。

固定姿勢支持困難は要するに「羽ばたき振戦」のことです。

あえて羽ばたき振戦とかかないのはちょっと意地悪かもしれませんね。

問題のテーマを考える。肝性脳症の原因となりえるのは

最初の問題C51を見ていきましょー。

これは結構難しいというか、出題した先生には申し訳ないけど問題文が少し言葉足らずだと思います。

「確認すべき症状」をどういう視点で解いたらいいのかがいまいち伝わってきません。

出題者は肝性脳症ありきで考えてますが、一般的な意識障害の問題と考えるとaのけいれんを選びたくなる気持ちもわかります。「今後治療するうえで」の一言くらいはあったほうが親切かなと思います。

正解はeです。便秘はアンモニア排泄が阻害されるので肝性脳症の原因になるから確認しましょうという意図です。

次の問題C52にも言えるのですが、「肝性脳症がなぜ起こったのでしょうか」がこの問題にしたくてこの問題のテーマです。

肝性脳症の原因を聞きたいのかなと問題の文脈を考えながら解かないと自信をもって正解を選べないと思います。

それだけ冷静な受験生がどれだけいるのか。

類題を解いたことがあったり直感が鋭い人は便秘をみて選べるかもしれません。

逆に意識障害の鑑別に必要なのはなんだ?という純粋な視点で選ぶと間違えるかもしれません。

選択肢を確認していきます。

a けいれん 

この選択肢は間違っていますが、大きく間違っているとは思いません。

意識障害の鑑別でけいれん発作があったかなかったかは重要だと思います。

実はさっきまでけいれんしていた可能性はないかという視点はあったほうが良いですし、けいれん後でも採血でのアンモニア値はあがるので鑑別は必要です。

繰り返し肝性脳症をおこしている患者さんならともかく、今回初めてで急性の経過なら色々な可能性はひとまず考えるべきでしょう。

本人はわからないので家族や救急隊などにそういう症状がなかったかは一言聞くほうが良いと思います。

ただしこの選択肢を除外するのは難しくないです。

今の症状としては傾眠というだけで呼びかければ会話できるレベルなのでけいれんしている様子はないですし、明らかに肝性脳症を疑う状況なので確認する重要性は低いことは確かです。

けいれん様のエピソードがないのにいきなりこの選択肢がでてくることにそもそも違和感を覚えるので間違い選択肢というのはわかります。

b 頭痛

発熱はなので可能性は低いですが意識障害の鑑別ですは髄膜炎ぐらいは頭の片隅で考えたほうがよいでしょう。本来はかならず確認すべき症状の一つだと思います。髄膜炎徴候が一つもないので一番重要かと言われれば確かに違うとは思いますが。

c 動悸

動悸があったからといってすぐさま何か対応が変わる状況ではないのでこれは違いますね。

d 腹痛

これは問題文に「圧痛なし、筋性防御なし」=「腹膜刺激兆候なし」ということなので選んでくれるなよということでしょうか。

でも実際に肝硬変の人が体調悪くなって来たら特発性腹膜炎(SBP)の可能性は考えるべきでしょう。

突然意識レベルが悪くなっているようですし、何か大きな引き金があったかもしれません。

この時点だったらSBPなどの感染契機に肝障害が悪化して肝性脳症になったのかとも考えられます。

SBPでは発熱の頻度は6-7割という報告もあり疑う必要はあります。問題文をよく読まないと選んでしまいそうな選択肢です。

e 便秘

正解の選択肢です。

肝性脳症の原因となりうるために聴取することは重要だと思います。でも少し容体が落ち着いてからでもよいのではないでしょうか。

肝性脳症は便秘を確認せよ!というメッセージを感じます。

落ち着いて検査所見を見てみよう。

C52を考えていきます。

この問題は一つ前の51からの流れを引継いでいます。つまりこの問題はなぜ肝性脳症になってしまったのかを調べるという視点で解かなければいけません。

a FDG-PET

転移巣を見つけるため検査することはあり得るでしょうが、まずすべき検査ではないでしょう。

b 腹腔動脈造影


造影CTを見る限りラプチャーしている所見もないですし今すぐすべき検査ではやはりありません。

c 上部消化管内視鏡

これが正解となります。

検査所見を見たときにHbが低下していることに気が付くでしょうか。

肝性脳症の原因としては消化管出血によるアンモニア生産の増加もあります。

つまり一元的に考えれば食道静脈瘤もかなりいかついものがありそうですし、上部消化管からの出血がHb低下と肝性脳症の原因と考えられるわけです。

黒色便がないというのはかなりこの選択肢を選ぶのを難しくしていると思います。

d 下部消化管内視鏡
上部消化管検査を行っても何も所見がなければ次に考慮という感じでしょう。

e 内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉

胆管炎などを疑う症状や造影CTでも所見がないのでまず行うことは無いでしょう。

肝臓がんの治療適応を理解しているか

C53を見ていきます。

いままでの肝性脳症の出題の流れをぶったぎる問題でとってつけた感は正直あります。

肝がんの治療適応について考える問題ですね。

まず治療適応を決めるうえで最も重視されてるのが予備肝機能がどれだけあるかということになります。

ガイドラインではChild-Pugh分類をもとにA,Bなら化学療法や手術の検討を、Cなら緩和ケアを検討していくことになります。

この問題を解くためにはChild-Pugh分類を覚えておく必要はありますが、肝臓がんの治療適応の詳細なところまでは覚えておく必要はなさそうです。

そもそも肝機能が残ってないと治療適応がないということが理解できていれば解けます。

Child-Pugh分類は6つの項目で点数を付けます。

「脳症、腹水、血清ビリルビン、アルブミン、PT活性」になります。これらが悪ければ悪いほど肝機能が悪いことがわかります。

選択肢をみるとb,c,dがこれに該当します。本来はPT-INRではなくてPT活性ですが。

この中でとびぬけて悪いのがビリルビンです。ビリルビンと肝性脳症や腹水、アルブミンの所見を合わせただけでもChild-Pugh分類としてはCになり治療適応はなさそうです。

Child-Pugh分類を知らなくてもこの採血の中で圧倒的にビリルビンが悪い値だという感覚があれば直感でも解けそうです。

a 血小板も肝硬変では低くなりますがまだそこまでは低くありませんし、Child-Pugh分類の項目ではありません。

e 腫瘍マーカーは一つの指標にはなりますが治療適応を決めることはあまりありません。

考え方が大事、文脈を読み取る力

後から見返すには勉強になる問題だと思います。しかし、問題文が言葉足らずな部分があり、試験会場で問題の意図を把握して回答するのは難しい印象です。

臨床的な感覚でこの患者さんのここはフォローしておかないといけなそうだな(貧血の進行)とかこの検査値(この症例ではビリルビン)はさすがに「ヤバい」なと考えを巡らせれば特に知識がなくても解けます。

普段から現場に出たつもりで症例問題を考えると良いトレーニングになるでしょう。

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内科の医師をしておりますドクトルめがねです。最近は研究にも足を踏み入れてしまいました。 学びを言語化する場としてブログを書いています。内科医の夫(ドクトルめがね)と外科医の嫁(よめぽん)の奮闘劇漫画も随時アップしていきます。

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