降圧薬がコロナウイルスと関連しているかもしれないという報告について紹介し考えてみたいと思います。
コロナウイルスの侵入経路にACE2が関与している。
コロナウイルスの侵入経路としてはACE2と呼ばれる受容体が関与している可能性が報告されています。
この経路を阻害する効果があるかもしれないということでナファモスタットを治療薬として東京大学が発表したのは記憶に新しいですね。
ACE2はARBやACEiといった降圧薬がターゲットとしているレニンアンジオテンシンアルドステロン系(RAAS系)に関与している
名前の通りACE2はレニンアンジオテンシンの経路にかかわるタンパク質になります。
いまのところARBやACEiといった種類の降圧薬がCOVID-19に対してマイナスに働くかプラスに働くかはわかっていませんが、相反する2つの仮設があり、「薬を中止すべき派」と「継続すべき派」に分かれています。
具体的にはどうなのかそれぞれの意見を見てみましょう。
①中止すべき派の仮説
中止すべき派の論拠はARBやACEiはACE2の転写を増やしているかもしれないという実験結果に基づいています。
理屈はシンプルでARBやACEiはACE2の発現を増やす→ウイルスが細胞に侵入しやすくなる→重症化する
という仮説です。
しかし、様々な反論があります。
反論その1: ARBやACEiがACE2へ影響ないという報告とACE2の発現があがっているという報告が入り乱れているのが現状です。ARBやACEiとACE2の発現にどれだけ関与するかが実験レベルでも決着がついていません。
反論その2:多くの報告が細胞や動物実験であり、ACE2とARBやACEiの関連は実際に治療を受けている人間でのデータが不足している。
とくにCOVID-19のメインターゲットになっているであろう肺胞上皮細胞での挙動はまだまだ未解明な部分が多く、仮説としてはよりどころにする根拠の部分がかなり不安定な印象です。
②継続すべき派の仮説
継続すべき派の仮説としてはACE2の機能に注目しています。
注目ポイント
①ARBやACEiはアンジオテンシンⅡを阻害する薬である(治療のターゲット)
②ACE2はアンジオテンシンⅡをアンジオテンシン(1-7)へと変換する作用がある。
③コロナウイルスに感染するとACE2は発現が減少する。
この3点です。
理屈としては:コロナウイルスに感染→ACE2減少→アンジオテンシンⅡがアンジオテンシン(1-7)に変換されずにアンジオテンシンⅡが増大する→ARBやACEiを中断するとアンジオテンシンⅡが阻害されず病状がさらに悪化する
という仮説です
補足:ARBはアンジオテンシンⅡが作用する受容体をブロックする薬で、ACEiはアンジオテンシンⅠがアンジオテンシンⅡへ変換するのを阻害する薬です。現代の高血圧の原因としてこのアンジオテンシンⅡが作用するレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS系)という生理的な経路が異常に活発になってしまうことが知られており治療薬として使われます。RAAS系はほかにも心臓病や腎臓病などの悪化の原因となっていることが知られています。
まとめ
中止すべき派の仮説と継続すべき派の仮説を紹介しました。
いまのところどちらもはっきりとしたデータがないため真相はわかりません。
ただ、ARBやACEiといった薬がデメリットになる可能性はまだまだ論拠に乏しい仮説だと思います。デメリットが大きいという信用できるデータが出ない限りは「継続すべき派」の理屈からしても中止するのは慎重になった方がよい印象も受けます。
詳細な報告を待ちつつも心臓病や腎臓病の持病があってメリットが大きそうな場合はなるべく慎重に使う、中止してもほとんど影響がなさそうな状況では中止して代替薬をつかうなどの対処が現実的な検討策でしょうか。
参考文献
April 23, 2020 N Engl J Med 2020; 382:1653-1659 DOI: 10.1056/NEJMsr2005760
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00060.html