原因不明の血尿?ナットクラッカー症候群(左腎静脈捕捉症候群)を理解する

血尿や背部痛の原因のひとつナットクラッカー症候群(左腎静脈捕捉症候群症候群の別名)について解説していきます。

よく出る症状を確認しよう


症状としては血尿、起立性蛋白尿、腰背部痛、骨盤内うっ滞症候群、精巣静脈瘤などがあります。

幾つかの症状がありますが、多くの場合は原因不明の血尿の時に鑑別の一つとして考えるのがナットクラッカー症候群になります。

なぜ血尿が出るのか病因を考える

病気の原因から何故それぞれの症状がでるのかを考えてみましょう。

ナットクラッカー症候群の患者さんは上腸間膜動脈と腹部大動脈の間が狭く、その隙間を通る左腎静脈がちょうど「くるみ割り人形にはさまれたくるみ」のように押しつぶされた状態になっています。

Eur J Vasc Endovasc Surg (2017) 53, 886-894 より改変

腎静脈押しつぶされた結果、静脈がうっ滞してしまい静脈圧が高まり、毛細静脈と腎盂に交通ができて血尿が出ると考えられています。

腎静脈の圧排により腎臓の内圧が上がることによって背部痛などの症状が出たり、うっ滞した静脈を迂回するような側副枝が発達することで骨盤内うっ滞症候群や精巣静脈瘤の原因になることがあります。

かなり稀ですが腎静脈が大動脈の背側を通過する場合もあり、この場合も背部と腹部大動脈に腎静脈が挟まれてナットクラッカー症候群を起こす場合があります。

International Journal of Surgery Case Reports 4 (2013) 1142– 1144より

ナットクラッカー症候群の原因としては上腸間膜動脈と腹部大動脈に挟まれて腎静脈が圧排される、生まれつきの解剖学的な要素が原因としては一番多いですが頻度は下がるもののその他の原因で腎静脈が圧排されてナットクラッカー症候群を引き起こす場合があります。


Eur J Vasc Endovasc Surg (2017) 53, 886-894 より改変


ナットクラッカー症候群は「腎前性」の血尿だ。糸球体性 or 非糸球体性?

血尿を鑑別するとき 腎前性―腎性―腎後性で考えるとわかりやすいと思います。

腎性=糸球体腎炎など腎臓の炎症が原因

腎後性=膀胱炎や尿路系の腫瘍など

といった具合に血尿が出る場所によって考える病気は異なってきます。

ナットクラッカー症候群の場合、血尿は腎臓から出ていますが、原因は腎静脈のうっ滞にあるので「腎前性」といってよいかと思います。

静脈から腎盂内に直接赤血球が出てくると考えられている

ナットクラッカー症候群の場合、赤血球は糸球体を通らずに出てくるために典型的には非糸球体性の血尿です。

したがって糸球体性の血尿が混じる場合は腎炎の合併を疑います。

しかしながら、ナットクラッカー症候群のみで糸球体性血尿を認める場合も症例報告されているため腎炎合併なしに糸球体性血尿が混在しているケースもありえることは注意が必要です。


※血尿には大きく分けて糸球体性と非糸球体性の血尿があります。

糸球体性の血尿は変形赤血球であり、非糸球体性の場合は比較的形が保たれている赤血球と解釈してもよいです。

ナットクラッカー症候群の診断基準

いまのところ明確な診断基準があるわけではありませんがゴールドスタンダードとしてよく用いられるはカテーテルを用いた引き抜きでの圧較差となります。

下大静脈(IVC)と左腎静脈(LRV)の圧較差が通常0-1mmHgであるのに対して、ナットクラッカー症候群の場合>3mmHgの開きがあることとされています。

超音波検査(エコー)、CT、MRI、IVRなどを用いて多角的に評価します。

日本でよく使われる診断基準もあります。

Acta Urol. Jpn. 40: 135-138, 1994  より引用

1 血尿や背部痛の原因となるようなほかの泌尿器的疾患がない

2 SMAと大動脈の距離が5mm未満

3  左腎静脈の最大血流速度が15cm/secより大きい

4 左腎静脈とIVCの圧較差が4cmH2Oより大きい

これらを満たすものはナットクラッカー症候群と診断します

最近ではCTを用いた診断基準もいくつか提唱されています。

Eur J Vasc Endovasc Surg (2017) 53, 886-894 より引用

閉塞した部分がくちばし状に見えるBeak signや腎静脈径、上腸間膜動脈(SMA)と腹部大動脈の為す角度に着目していくことになります。

上の表だと41度ですが、上腸間膜動脈(SMA)と腹部大動脈の角度が35度未満で診断確率が上がるという報告もあります。

実際にはいくつかの所見を組み合わせて診断していくことになります。

治療方法は保存加療と外科的治療に分かれる

基本的には保存的な治療法になります。特に18歳以下の若い方は成長とともに自然軽快する場合もあるため可能であれば経過観察します。

保存的な治療としては

①体重を増やして上腸間膜動脈(SMA)と大動脈の間に脂肪など組織を増やして腎静脈を保護する

②側副路の発達を待つ

③起立性蛋白尿が多い場合はACE阻害薬など検討

などが考えられます。


ではどのようなときに外科的治療をするのかというと症状が重い場合です。

具体的には大量の血尿により貧血が進んだり、ひどい起立性蛋白尿や腎機能の低下の原因になっていると疑われるとき、背部痛など症状が重いときなどに外科的治療が考慮されることになります。

開腹での外科的治療のほかにも腹腔鏡を用いた手術やステントの留置なども選択肢として検討されます。

参考文献

Eur J Vasc Endovasc Surg (2017) 53, 886-894

Acta Urol. Jpn. 40: 135-138, 1994

International Journal of Surgery Case Reports 4 (2013) 1142– 1144

Int Urol Nephrol. 2013 Jun;45(3):809-16

Nephrology (Carlton). 2018 May;23(5):495.

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内科の医師をしておりますドクトルめがねです。最近は研究にも足を踏み入れてしまいました。 学びを言語化する場としてブログを書いています。内科医の夫(ドクトルめがね)と外科医の嫁(よめぽん)の奮闘劇漫画も随時アップしていきます。

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