62歳の男性。血糖コントロールと腎機能の悪化のため来院した。20年前から2型糖尿病で自宅近くの診療所でスルホニル尿素薬の内服治療を受けている。5年前から血糖コントロールが徐々に悪化し、血清クレアチニンも上昇してきたため、紹介されて受診した。身長165cm、体重76kg。脈拍84/分、整。血圧168/62mmHg。両眼に増殖性網膜症を認める。両下腿に軽度の浮腫を認める。アキレス腱反射は両側消失。尿所見:蛋白2+、糖2+、ケトン体(一)。血液所見:赤血球395万、Hb11.2 g/dL、Ht32%、白血球5,500、血小板22万。血液生化学所見:尿素窒素40mg/dL、クレアチニン3.2mg/dL、空腹時血糖226mg/dL、HbA1c10.8 %(基準4.6~6. 2)。
糖尿病治療について最も適切な対応はどれか。医師国家執権第113回A59より引用
a 食事療法を強化する。
b ビグアナイドを追加する。
c インスリン製剤を導入する。
d スルホニル尿素薬を増量する。
e α-グルコシダーゼ阻害薬を追加する。
突然ですが、糖尿病の合併症は何でしょう。
糖尿病はしめじが大事!
「し・め・じ」ですね
し=神経障害
め=網膜症
じ=糖尿病性腎症
し・め・じの順で典型的には障害が出てくるのでこのごろは覚えましょう。
この症例では腎障害まで出てきているようです。
かなり進行した糖尿病ということがわかります。
HbA1c10%とかなりコントロールは悪そうですね。
スルホニル尿素薬(SU薬)は腎障害で禁忌
SU薬は強力な薬で効果は出ますが、その分副作用にも注意しなくてはいけません。
一番注意すべきは低血糖になります。
腎機能が低下してくると作用が増強されて低血糖を引き起こすことがよくあります。
腎障害により薬もなかなか排泄されずに腎から排泄されるインスリンが減る
→低血糖という流れです。
救急外来で低血糖をみたらSU薬内服は確認すべし
SU薬での低血糖は遷延するため、基本的には入院で様子を見なければなりません。
ブドウ糖を投与するといったんは血糖上がりますが、薬の効果が切れるまではすぐに低血糖になるので帰宅させるのは絶対ダメです。
薬にもよりますが日本腎臓学会の推奨ではCCr<50では禁忌です。
様々な理由から軽度の腎機能障害でも慎重に投与しているケースもあると思いますが特に高齢者では低血糖の副作用が問題になるため、SU薬はなるべく使わない方向になっています。
したがって選択肢cはだめです。
ビグアナイド(メトホルミン)もeGFR<=30では禁忌となるためこの症例では使えません。
SU薬とメトホルミンは腎機能が低下すると使えないは覚えておいて損はないです。
当毒性という概念を覚えよう
HbA1cの値から血糖コントロールはかなり悪いことが予想されます。
もちろんaの食事療法は必要ですしα-グルコシダーゼ阻害薬も腎機能低下例でも使えるため落ちついたら検討してもよいでしょう。
ここで重要なのは「当毒性」という概念になります
糖毒性とは
高血糖の細胞障害作用によって、インスリン抵抗性が高まり、インスリン分泌能が低下してしまった状態といえます。
高血糖→インスリン抵抗性↑、インスリン分泌能↓→さらに高血糖
という悪循環になっていると考えられます。
糖毒性の解除はインスリンの適応
糖毒性の悪循環を断ち切ることを糖毒性の解除といいますが、糖毒性を解除するには基本的にインスリンを使って血糖値を適正にコントロールしてあげる必要があります。
インスリンが枯渇しているからインスリンを導入すべきと考えて正解にたどりついて人もいると思いますが厳密には正解ではありません。
この症例はどの程度インスリン分泌能が保たれているのかこの段階では評価されていません。細かいですがインスリンが枯渇しているからインスリンを導入するではなくて糖毒性を解除するためにインスリンを導入するが正解です。
したがって正解はcですね。
参考文献
腎機能低下時の主な薬剤投与量一覧 日本腎臓学会
Early Effect of short-term Intensive Therapy and Log-term Comparison of Newly Diagnosed and Previously Treated Type 2 Diabetic Patients J.Japan Diab. Soc 2013;56:551-9