82 歳の男性。頻回の嘔吐を主訴に救急車で搬入された。10年以上前から胆嚢結石症と診断されていたが無症状のため経過観察となっていた。昨日の昼食時に食物残流が混じった嘔吐が2回あり、夕食は摂取しなかった。深夜になっても嘔吐を3回繰り返したため救急車を要請した。体温36.8 ℃。心拍数100/分、整。血圧100/58mmHg 。呼吸数20/分。腹部は膨満し、心窩部から臍周囲に圧痛を認めるが、筋性防御を認めない。聴診で金属音を聴取する。血液所見:赤血球395万、Hb 12.4 g/dL 、Ht 37% 、白血球 12,600 、血小板 18 万。血液生化学所見:総蛋白 6.6 g/dL 、アルブミン 3.3 g/dL 、総ビリルビン 1.4 mg/dL 、AST 18 U/L 、ALT 8 U/L 、尿素窒素 38mg/dL 、クレアチニン 1.8 mg/dL。発症 2年前の腹部単純CT(別冊No. 16A) 及び今回の腹部単純 CT(別冊No. 16B) を別に示す。
適切な治療はどれか。
a 下剤の投与
b イレウス解除術
c 腹腔鏡下胆嚢摘出術
d 経皮的胆嚢ドレナージ
e 内視鏡的胆管ドレナージ
第113回医師国家試験D43より引用
ちょっとマニアックなイレウスのパターンです。
症例の背景を確認する
高齢男性が嘔吐を主訴に来院した様です。
どうやら胆のう結石を指摘されていたようですね。
画像No.16aを見てみると白く胆のうのなかに胆のう結石が写っています。
嘔吐を繰り返しており腹痛はあるようですが筋性防御はなし→腹膜炎までは至っていないと考えます。
腹部は膨隆=ガスがたまっている。
金属音を聴取する=腸蠕動はある。
機械性イレウスを疑う所見ですね。
さらにCTをみていくと胆石が落っこちて小腸に詰まってしまっています。
どうやら胆石が小腸につまったことによる機械性イレウスのなかでも単純性イレウスということになりそうです。
イレウスの基本的な分類
イレウスは機能性イレウスと機械性イレウスに大きく分けられます。
機能性イレウス=「物理的な閉塞なし」
機械性イレウス=「物理的な閉塞あり」
今回の症例は物理的閉塞ありなので、機械性イレウスです。
機械性イレウスの中で血流障害があるものを絞扼性イレウス、ないものを単純性イレウスと呼びます。
区別するのは絞扼性イレウスであれば、緊急手術の適応があり単純性イレウスであれば保存的に治療できる場合があるからです。
この症例では造影CTなどの評価はなされていませんが、腹膜炎症状もないし腸管捻転など血流障害をおこしうる原因はなさそうなので単純性イレウスでしょう。
イレウスの治療法は通過障害の解除
血流障害がなさそうであり、全身状態も悪くないことを考えれば焦る必要はありません。
胃管などによる腸管の減圧を図りつつ、胆石が排出されるのを待ちます=通過障害の解除を待つ
胆石の自然排泄が期待できないようであれば手術で閉塞起点の切除を行うことになると思われます。
a 下剤の投与
イレウスの原因は便秘ではないので最初に考慮される選択肢ではないです。
特にこの症例は機械音がするくらい腸管蠕動は亢進しており、刺激性の下剤はあまり意味がないと思われます。
弛緩性の下剤ならまだ考慮されるかもしれないですが根本解決にはやはりなりません。
b イレウス解除術
正解の選択肢になります。
保存加療も選択肢にはなり得ますが胆石の自然排泄率は4-6%と自然軽快の可能性は低く、症状も増悪傾向にあることからも手術の適応は高いです。
対応には施設ごとに差があると思いますが基本的には手術となるでしょう。
ベストワンなら通過障害の解除を選べば間違いないです。
c 腹腔鏡下胆嚢摘出術
イレウスの手術のついでに胆のうを摘出する可能性はありますが、本筋ではないでしょう。
d 経皮的胆嚢ドレナージ
胆のう炎の治療ですね。胆のう炎ではないので適応外です。
e 内視鏡的胆管ドレナージ
胆管炎の治療ですね。胆管炎ではないので適応外です。
参考文献
日本消化器学会雑誌 2015 年 48 巻 9 号 p. 761-768