比較的よく遭遇する心不全急性増悪の症例ですね。非常にいい問題だと思います。
高血圧性心疾患の患者が、肺水腫を急激に発症し、急性心不全と診断された。洞性頻脈で血圧は 170/100 mmHg である。浮腫などの体液貯留を認めない。呼吸管理とともにまず行う治療はどれか。
a利尿薬の投与b ジギタリスの投与
c 血管拡張薬の投与
d ドブタミンの投与
e 生理食塩液の急速輸
医師国家試験 第111回B3
回答と解説をしていきましょう
クリニカルシナリオ(CS)とは
日本循環器内科のガイドラインでも出てくる心不全におけるクリニカルシナリオ(CS)をしっかり理解できていますか?というのを聞いています。
CSは血圧のみで心不全の病態を整理して初期対応を外さないようにしようという画期的な考え方です。
この症例では収縮期血圧が170mmHg以上あり、CSでいうとCS1ということになります。
CS1は上記の通り、よく病態生理の部分を見てみると浮腫は軽度から低下と書いてあります。つまりCS1というのはすごい浮腫んでいること(=体液過剰)が心不全の主な引き金ではないよということを示しています。
体液過剰そのものが原因の場合はどちらかというとCS2のほうで血圧はそこまで高くない場合を考えます。
CS1とはどういことか???
肺水腫というのは左心から右心に血液がいかずに肺でうっ滞している証拠です。
肺水腫になってしまったのは過剰な体液が肺にもれてしまっただけではありません。
左(=左心系)から右(=右心系)に血液がいかないからその間にある肺に水がたまっているのです。
なぜ左から右にまわらないのかを考えてください。血圧の式ってありますよね。
血圧はこのような式で簡易的に表現されます
血圧=心拍出量×血管抵抗
心不全というのは全身に血液を送り出せていない状況です。CS1では血圧が大きく上がっているのが特徴ですよね。
心不全で心拍出量が大きく上がっていることは無いでしょう。心拍出量を保てるなら普通は代償が効くので心不全にはなりません、つまり心拍出量は横ばいから低下と考えます。
そうすると血管抵抗の過剰な増大が血圧上昇の大きな原因だったと見えてきます。
なんらかの理由で血管抵抗が上昇⇒心拍出量を保とうと心臓はがんばる⇒血圧はあがっているという状況です。
しかし、心臓も限界があります。頑張り切れなくなった心臓はポンプとしての役割をはたしきれず必要な心拍出量を保てなくなります。左から右に回らなくなったうっ滞した血液はどこに行くでしょう?
肺水腫になる理由を整理
血液の循環をすごく簡単に
左心⇒全身の毛細血管⇒右心⇒肺⇒左心
というサイクルで流れているととらえると
左から右に行かない状態なので左心のすぐ手前=肺にうっ滞することになります
肺にたまり肺水腫となって表れるのです。
血管抵抗が突然上がってしまう原因はケースバイケースで多岐にわたるでしょう。よくあるのが感染など。
動硬化や自律神経の過剰な興奮なども関係しているでしょう。つまり、血管抵抗が異常に上がってしまい本来肺には漏れてはいけない体液が漏れてしまった、体液分布異常の状態がCS1の病態ということです。
つまりまずやるべきは血管拡張薬を投与して、血管を拡張させて血管抵抗を下げてあげつつ本来あるべき場所(=末梢の静脈系)に体液を戻していく必要があります。
そうすれば心臓を落ち着けることができるし、肺にたまった水をもとの分布に元に戻してあげることができますね。
選択肢から治療法を考えてみよう
a利尿薬の投与
これが一番間違いやすい選択でしょう。
かなり挑戦的な選択肢で、浮腫は存在しないとうい文言で割れ問を回避しようとしています。
実臨床でも利尿薬ファーストで使う先生はたくさんいるような気がします。
もちろんこう言った患者さんは心機能のベースが悪いことも多く、塩分過剰摂取が高血圧の原因だったりもするのでほとんどの場合はやや溢水気味です。
最終的には利尿薬をつかって体液バランスをコントロールしてあげることが必要になってくるのですが、初期対応としての効果は血管拡張薬ほどではありません。どちらかというと中長期(入院数日から退院後)を見据えた戦略となってきますが、現実的には血管内脱水がなければ初期対応から併用します。
ガイドラインもよく見るとCS1は利尿薬必須とはかかれてないのです。
b ジギタリスの投与
いきなりジギタリスは今どきではありません。
心房細動合併の低左心機能の心不全でレートコントロールしつつ心臓をたたいてやるかという感じで使用を考慮するかもしれませんが、予後を改善するかはわかっていませんし使い慣れていないとなかなか難しいところですね。
洞調律とわざわざ問題文にかいてありますね。丁寧です。
c 血管拡張薬の投与
これは正解
d ドブタミンの投与
ガイドラインに立ち返れば強心薬はCS3-5の低血圧を伴うときに考慮することになります。
血圧が高くなるくらい頑張っている心臓をさらに頑張らせることは普通しないですよね。
こういった強心薬を使う必要があるのは心臓の動きが悪くて全身に血流が言っていない場合に心臓に頑張ってもらうために使います。
例えば、「呼吸困難で搬送されたけど血圧がやけに低いし心エコーを充てると拡張型心筋症でEFも30%くらいしかない。動脈採血では乳酸もかなり高いし四肢は冷感が著明で浮腫もある」みたいな場合ですね。
心筋梗塞や心筋症などで心臓が頑張れない時は強心薬をつかいながら利尿薬を使って状況を改善させるしかないでしょう。
e 生理食塩液の急速輸
ショックバイタルならわかりますが。まあこの症例にやったら予後不良でしょう。禁忌肢じゃないかなぁ。
参考文献
日本循環器学会 急性心不全ガイドライン