63歳の女性。7月末の正午過ぎ、救急外来に日本語の話せない外国人女性が救急車で搬入された。救急車で同行した配偶者(外国人)が病院の臨床修練外国医師に話した内容と患者の所見をまとめた診療記録を示す。
The patient felt faint while walking on the beach. She then sat under a shade where she vomited. She complained of headache and dizziness before fainting.
Her face turned red and her breathing became rapid.
Physical examination
・Body temperature :39.2℃.
・Conscious level :Glasgow Coma Scale E3 V4 M5.
・Skin :generally hot. flushed and dry.
・Heart rate :140/min, regular.
Blood pressure :86 /60 mmHg.
Respiratory rate :24 /min, shallow.
・No hemiplegia.
・Muscle spasms in limbs.
まず行うべきなのはどれか。
a Chest CTb Body cooling
c Oral water intake
d Tracheal intubation
第113回医師国家試験E41より引用
e Antibiotics infusion
熱中症への対応を覚えよう。
どんどん熱くなる日本の夏。熱中症に関する話題は年々増えているように感じます。
研修医になったら確実にどこかで対応することになるであろう熱中症について対応を確認していきましょう。
最近増えている英語の問題ですね。問われている英語力はそこまで大きなものではなさそうです。
まずはひとつひとつ訳していきましょう。
「The patient felt faint while walking on the beach. 」
患者は海辺を歩いている時に気が遠くなる感じがした。
「She then sat under a shade where she vomited. 」
日陰に座りこみ嘔吐した。
「She complained of headache and dizziness before fainting.」
気を失う前に頭痛とめまいを訴えていた。
Her face turned red and her breathing became rapid.
「顔は真っ赤になり呼吸も早くなっていた」
Physical examination
・Body temperature :39.2℃.
・Conscious level :Glasgow Coma Scale E3 V4 M5.
・Skin :generally hot. flushed and dry.
・Heart rate :140/min, regular.
Blood pressure :86 /60 mmHg.
Respiratory rate :24 /min, shallow.
・No hemiplegia.
・Muscle spasms in limbs.
身体所見
体温39.2℃
GCS E3V4M5の意識レベル
表皮は暖かく、発赤あり、乾燥あり
脈拍 140/分
血圧 86/60 mmHg
呼吸数 24/分
麻痺なし
四肢に痙攣あり
状況としては熱い夏に海辺を歩いていた中年女性が頭痛、嘔吐、めまいなどを自覚し倒れてしまったようです。
搬送時は意識が悪く、発熱があります。低血圧や頻脈も伴っているようです。
熱中症への適切な対応とは
選択肢の妥当性を吟味しながら適切な対応を考えてみます。
a Chest CT =胸部CT
病歴に胸痛の訴えなどあればまだわかりますが、現時点でいきなり胸部CTをとる根拠がありません。
b Body cooling =クーリング
真夏の海岸で歩いていること状況からは熱中症の可能性を最も疑います。
熱中症の初期対応としてまず必要なのは体温を下げることです。
高体温に長時間さらされていることはそれだけ予後を悪化させる因子となるため速やかに対応を下げてあげることが必要になりますが、低体温を避けるために38℃台をまずは目標に体温をコントロールしましょう。
c Oral water intake =飲水
意識状態が悪いため経口摂取は難しいでしょう。皮膚乾燥もあり脱水も合併していそうです。
ルートを確保し血圧が上がるまで速やかに補液をします。
d Tracheal intubation =気管挿管
酸素化で今のところ問題になっているところはなさそうです。特に気管挿管を必要とする状況ではありませんね。
e Antibiotics infusion =抗菌薬投与
少し難しい選択肢ですね。
現実の臨床では熱中症と感染症を初期対応で見分けることは困難な場合も多々あります。
例えばエアコンの無い室内で高齢者が倒れていて運ばれた場合などです。尿路感染症や肺炎をこじらせて倒れていたのか、熱中症をこじらせて倒れていたのかいずれにせよ熱が出たり、DICになったり判別がつかない場合もあります。
現実にはこういった場合は培養の検査をしっかりしつつ、両方の可能性を考えて治療をしていくことが多いです。
少なくとも培養の陰性が確認できるまでは経験的に抗菌薬を投与しつつ全身管理をしていくことになると思います。
この症例ではどうか
この症例でもq-SOFAを当てはめれば、意識、呼吸、循環がすべて当てはまり3点となってしまいますが、本当にsepsis(=敗血症)を疑うべき状況でしょうか。
q-SOFAについてはこちらを参照
今回のケースがやや異なるのは病歴がはっきりと熱中症であると訴えていることだと思います。
病歴の中に数日前から体調が悪くてとか、朝から熱っぽかたが無理をして外出したとかのエピソードがあれば話はかわりますが、さっきまで元気だった人がいきなり調子わるくなって倒れるのは通常の感染症の経過ではありません。
早くとも数時間単位で状態がわるくなっていくことが多いと思われます。
わざわざ真夏の正午と問題文にも書いてあるわけですしここは素直に解釈しましょう。
現実には非典型的な経過をたどる症例もあるので抗菌薬を使うべきか考えることは必要だと思います。
塗抹標本で明らかに細菌がいそうだ、CT検査をしてみたら肺炎がある(意識が悪いなかで嘔吐しており誤嚥性肺炎を合併している可能性は十分あります)などの場合は抗菌薬を積極的に使用していくべきだと思います。
クーリングや輸液でvitalを安定させながら治療の反応性や検査結果みつつ、抗菌薬を投与すべきか判断すればよいでしょう。
最後に
国家試験ででる英語の問題は英語としては難しくありません。
わからない単語があってもそれをフォローするくらい単純な単語がちりばめられており内容を理解するのには困らないはずです。
英語に惑わされず冷静に素直に解きましょう。
参考文献
熱中症診療ガイドライン 2015 日本救急医学会