64歳の男性。心停止のため救急車で搬入された。職場で突然倒れたため、同僚が救急車を要請した。救急隊到着時に隊員により心停止が確認され、心肺蘇生が開始された。現場で救急隊員により AEDを用いて電気ショックが実施された。胸骨圧迫ならびにバッグバルブマスクを用いた人工呼吸、さらに 2分おきに電気ショックを実施しながら、病院に到着した。搬入時、救急隊のストレッチャーから処置台に移動し、胸骨圧迫を継続した。
第113回医師国家試験F57より引用
次に優先して行うべきなのはどれか。
a 血圧測定
b 気管挿管
c 電気ショック
d 肩をたたいて反応を確認
e 心電図モニターの波形観察
心肺蘇生のアルゴリズムを理解せよ
心肺停止の患者さんが運ばれてきたとき真っ先に何をするかですね。
どの選択肢も流れの中では重要になってくるので順位付けが大事になってきます。
この問題の背景には2018年に改定されたAHA(American Heart Association)の心肺蘇生ガイドラインがあります。
研修医になったら必須の知識に関しては最新のガイドラインを確認せよというメッセージでしょう。
AHAのガイドラインを確認
ガイドラインを見るとどの選択肢を選ぶべきかの必然性がわかります。
一番最初の部に注目しましょう。
ガイドラインはhttps://eccguidelines.heart.org/index.php/circulation/cpr-ecc-guidelines-2/から無料ダウンロードできます。
まずはモニター波形のチェックです。
胸骨圧迫を続けつつモニターを装着したいったん波形を確認します。
なぜ波形チェックなのか
→波形によって治療方針が大きく変わるから。
モニター心電図では細かい心電図変化はわかりませんがモニター心電図だけで十分に診断のつくものがあります。
それはVF(Ventricular fibrillation、心室細動)とVT(ventricular tachycardia、心室頻拍)です。
VFの波形
VFはぐちゃぐちゃとした波形で非常にわかりやすいです。
VTの波形
VTは割ときっちとした波形になります。VTは脈が保たれている場合もありますので、心肺蘇生の時にVTがみられたら脈なしVTと呼びます。
心肺蘇生中(CPR中)にVT/VFが見られたら電気ショックの適応になります。
この症例でもAEDで電気ショックが行われていることからVFあるいはVTの波形だった可能性が高そうです。
いまの心電図がVT/VFが続いているのかPEAに移行しているのかなどを確認しましょう。
電気ショックを行うかあるいは別の原因を探しに行くのかという方向性の大きな違いが出てきます。
そしてVF/VTであればかなり心原性が疑わしくなるためROSCしたら循環器内科をコールすることや、アミオダロンなどの抗不整脈薬を積極的に使っていくという戦略がたてられます。
選択肢を吟味してみる
a 血圧測定
ROSCしたら血圧測定は必須ですが、まずは頸動脈、大腿動脈、橈骨動脈など脈が触れるかの確認で十分でしょう。
脈が触れて初めて血圧を測定する意義がでてきます。
b 気管挿管
つい選びがちなこの選択肢。もし心肺停止の原因が明らかにair wayの問題だとはっきりしている場合はなるべく早く処置すべきかもしれません。
CPRでは胸骨圧迫の質を保つことが原則です。
マスク換気を続けながら落ち着いたところで気管挿管を行えばよいでしょう。
気管挿管をするために胸骨圧迫を中断するのはよくないので素早く気管挿管できないようであれば撤退してマスク換気を継続するほうが良いです。
c 電気ショック
モニターで波形チェックしてからにしましょう。
d 肩をたたいて反応を確認
意識を確認するのは後回しです。A(air way)、B(breathing)、C(circulation)が確保されてからです。脈が確認できてからでよいでしょう。
意識があれば胸骨圧迫の疼痛刺激になんらかの反応を示すはずと考えてもよいです。
e 心電図モニターの波形観察
正解です。
参考文献
highlights of the 2018 Guidelines Focused Updates